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強がりと焦燥の先に【後編】
《セフレ?な2人の話後編》
[chapter:4.天邪鬼と般若]
とてつもなく後悔している。
自分の気持ちに素直なまま『行かないで、私が先約じゃん』って言えたら良いのに、あまのじゃくで大人ぶって。
真島さんもきっとそう言ってもいいんだというパスを出してくれていたのに。
そんな後悔をしてももう遅くて、夜のお店に行った彼とはきっと今日はもう会えない。
インターホンが鳴った。微かな期待をする気持ちを抑えながら、あれから時間もそんなに経っていないしそんな訳無いと予防線を張って自分の心を守りながらカメラ越しに来訪者を確認した。
「金だけ使うて出てきた」
「…………そ」
素直に嬉しいと言うことができない私のことなんてお見通しのように、しゃあないな、というように笑い、髪をくしゃしゃと撫でられた。
自分勝手なようでいて、結局のところ優しい。この余裕にいつもやられてしまう。
真島さんはそのまま当たり前のように靴を脱いで部屋の中へと入り、遠慮なくソファへどかりと腰掛けていた。その横に膝を抱えて座ると、彼は顔を覗き込んできた。
「ま、その顔見て安心したわ」
「え?」
「強がり言ってるっちゅうんは予想はしてた」
「そっか」
「でもなぁ、……それにしたって強情っぱり過ぎやろが」
「ごめん」
「謝れるんはええ子やな」
「…………真島さん、お風呂入ってきて」
「へいへい。ホンマ素直やないのぉ」
本当に。他の女の子の香水の匂いさせて無いでよって言えたら可愛いのになぁってホントに自分でも思いながら真島さんの背中を見送った。
[chapter:5.デリバリーとキャバ嬢]
「あ、いいな。これ頼もう」
「この時間にか?」
「私の家からは頼めないんだよねぇ。けど好きなの」
今日は真島さんが急に早い時間から空いたと、連絡が来て真島さんの家に呼ばれた。
気になっていた映画を隣に並んで観ているうちに、お互いに何となく盛り上がってしまい時間を忘れて何度も身体を重ね、気付いたら二人ともにお腹がぺこぺこになっていた。
裸のまま真島さんの腕の中でベットから出ずにいてご飯を頼むことの自堕落さの背徳感による高揚感。それに加えて真島さんの自宅は繁華街が近いから、私の家と比べて頼める種類が多くて選ぶのが楽しい。
「真島さんはどれにする?」
「そやなぁ、これとか美味そうやな」
「めっちゃセンスいいね。分けっこしよ。決定」
「なんや、えらい可愛らしいの」
「あ、すごい。30分で来るって」
「ホンマ便利な世の中やで」
結局予定時間の15分後に到着したご飯を食べながら、途中になってしまった映画をまた二人で観た。思っていたより面白かった。
そのまま一晩を過ごして、翌朝目が覚めると隣には真島さんは居なかった。達筆な字で急な召集がかかったことと、先に出ることへの謝罪が書かれていた。手紙だと別人のように丁寧だ。
鍵はオートロックなので、特に問題は無いだろうと寝起きの頭でぼんやりと考えながら帰る支度をした。いつまで居てくれても良いということも書かれていたけれど、一人で過ごすにはこの部屋は広すぎるし、寂しい。
軽く支度をし、部屋を出てエレベーターから立派なエントランスへ出たところで、ロビーに見覚えのある女の子が立っていた。
あの夜に遭遇したキャバ嬢の女の子。
まぁ、見かけたのは互いにあの一瞬だったし、分からない可能性の方が高いか、と結論付けて違和感無く気取られないようにそっと通り過ぎようとした。
けれど広いロビーと言えども他に人も居なく静かな空間でそれが通る訳も無く、強い視線を感じた。
かと言って特に話すことも無いので、こちらは何も気付いていないというように通り過ぎようとした。
「待ってよ」
「………なんでしょう」
まぁ、それはそうか。この子も真島さんにかなり入れ込んでいるようだったし、他の女の存在が気にならないはずがない。増してやキャバ嬢なのだからきっと勝気であろう。
「夜の世界のこと知らないだろうから教えてあげるけど、アンタなんか真島さんのただの暇つぶしなんだから!本気になって馬鹿見るのは自分なんだからね!!」
分かってる。
その通りだと思ってる。
自分が特別だなんて思っていないし、驕っているつもりも無かった筈なのに。
真島さんの家にこの子が来ていることで、それは証明されているのに、その事実に心が苦しくて、辛くて。
彼女の言葉に何も返せぬまま、エントランスを後にした。
[chapter:6.強がりと焦燥の先に]
他の女と遊んでることの確定演出が入ったからと言って今更今の真島さんとの関係を切り捨てるなんて大それたことは出来ないと分かっていた。
そんなに強くないし、かっこいい女でもないのだ。
結局は真島さんの魅力に憑りつかれていて、離れることなんて出来ない。
どうしたらいいか。理屈では自分の気持ちに折り合いをつけるしかないけれど、そう上手くはいかないのが現実である。
そんな心境の中で、真島さんからの声掛けがあれば会う。これもまた現実。
「なんや、元気無さそうやな」
「そうですか?」
勘なのか洞察力があるのか、はたまたその両方なのか。真島さんは度々見抜いてくるところがあり、今日もこうして私の家で顔を合わせるなり、何かを見定めるようにじっと視線を向けられていた。
ここで観念する訳にはいかない私は何ともないフリをし続け、どこ吹く風といった態度を取る。それに真島さんが気が付かない筈もなく、聞き出そうとして気遣いを見せた様子から一変、空気が変わる。
「腹にため込まれんのが一番キツイわ。言いたいことあるなら言えや」
さて困った。言いたいこと。ある。でも、言いたくない。
だってそうしたらめんどくさい女になって、もう真島さんには会えなくなるかもしれない。
沢山の女の子を囲っているだろうしということを言って、でもそれはいままで暗黙の了解というか決して明言することはなかったし、今改めて言葉にして出すことも嫌だった。
「言ってもしょうがないと思ってるから」
「あ?」
その結果、ちりちりと小さく火がつき始めていた導火線にガソリンを投下した。どぼどぼと、勢いよく。火が大きく燃え上がる。
「お前それ本気で言ってるんか?」
ホンモノヤクザに凄まれることほど怖いことは無いと思う。きっとこれでも本来のヤクザの姿とは比べものにならないくらい充分優しい方なのだろうけど、射抜くを通り越して刺される勢いの自然と、血の底を這うような低い声は、全くもって怖い。
怖いけど、やっぱり折れる訳には行かないのだ。怯まないという意思表示で合っためせんは外さない。
「腹座ってるんは大したモンやけどなァ。……なんでそんなまでして強情なんや、自分」
そんなの、一つしかないよ。
「………………真島さんに、嫌われたくないから」
「お前ん中で俺はそんなモンの男なんか?」
「醜い自分は見せたくないってだけ」
「せやから、見くびってるんか?俺ンことを」
「言ったら真島さん、会ってくれなくなるでしょ」
「………………は?」
真島さんの鬼気迫る怒気に困惑が交じり、緊迫した空気が少し抜けた。
「だって私と真島さん別に付き合ってる訳じゃないし」
「あぁ?」
先ほど抜けたと思っていた緊迫がまた戻ってきた。でも……違うの?
「………………え?」
「お前、俺の女やなかったらなんやねん」
「あぁ言い方が悪かったか、真島さんの女の一人でしかないじゃん」
「はぁ?お前意外におる訳無いやろ!! 何言うとるねん」
いやいや。こちらは見ている。キャバ嬢のあの子が真島さんの家に来ていることを。一介のキャバ嬢だったら東城会の大幹部である彼の家を知るなんてことはそうないだろう。考えられるのはやっぱり彼女もそうであるということだ。
「いいよ別に隠さなくっても。最初から私だけだなんて思ってないし」
「なんでそないな考えになんねん……」
「真島さんのマンションで女の子とすれ違ったことあるし」
「あぁ?」
仮にもこの人の女なのになんでこんな短時間の間でここまで凄まれているのだろうか。私はおかしなことは一つも言っていないのに。
「ほら、前お酒飲み比べ付き合ってもらった帰りに会った子ですよ」
「それ、ほんまか」
声色が変わった。今度は真偽を確かめるように真剣な問い。
「はい。すれ違ったのはエントランスでしたけど……」
「家は組のモンでも限られた奴とお前にしか知らん」
「え、そうなの」
真島さんは嘘が嫌いな人だ。そもそも私はそれで良いって言っていることに対しそんなことする必要だってないし。
「組のモンに遣わせた時にでも尾けてたんやろ。ケジメつけさせなあかんなぁ」
それか酒の席で口を滑らしたかと続けた。
それは組の人なのか、あの子なのか。どちらもの可能性もある。私が思わず口を滑らせたせいで。
そんな考えを見透かすように真島さんが口を開いた。
「ま、お前が気にする必要ないわな。それより」
「わっ……!」
肩を軽く押され向き合っていたソファの上でいとも簡単に組み敷かれた。
「お前、俺がどうでもいいと思ってる女に構う男やと思ってたんかいな」
心底呆れた顔をされたけど、私だってそう思うに至る理由があったと思う。
「だって真島さん、そういう器用なところあるし」
また空気感が変わった。やばい。多分、地雷踏んだ。
「ほお?俺が腹決めて口説いてたっちゅうのに、伝わっとらんかったってことやな?」
「私から誘ったことないし」
「なんでやろなとは思っとった」
「付き合おうとか言われたことないし」
「そんなんわざわざ言わんやろ」
「そうやって不倫とか浮気って始まっていくらしいですよ」
「安心せい。お前だけや」
あとは?と優しく問う真島さんに続ける
「………………好きって言われたことない」
「そやったか?」
「そうだよ!!」
「あー……まぁ、お前が気ぃ失った後だったかもしれん」
「え、えぇ!?」
ほんなら、これから嫌っちゅうほど云ったるな?
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強がりと焦燥の先に【前編】
《セフレ?な2人の話前編》
[chapter:1.関係性]
「今や」
「ん」
神室町からほど近い高層マンションの一室、大の大人二人が缶ビール片手に卓を囲んでいる。ちなみに、麻雀ではない。
テーブルには刻まれた紅生姜とキャベツ、タコと天かす、それから万能ネギ。チーズやエビの変わり種もいくつか。そして小麦粉を水で溶いたクリーム色の生地。
真島さんの号令で事前に指示を受けている通りに鉄板に沈んでいる半分液体、半分固体になっているブツを球体になるように回転させ、丸くする。彼の説明が上手いのと私自身の器用さもあって綺麗な球体が続々と完成していく。真島さん側のシマも同じような状態だ。
「おぉ、なかなか上手いやん」
「師匠の的確な指示のお陰かも」
その言葉に真島さんが得意げに鼻を鳴らした。たまにするこれがコワモテの見た目とプロフィールに似合わずなんだかかわいらしくて好きだ。
「あー、めっちゃおいしそう。早く食べたい」
「もうちょい満遍なく焼きたいとこやな」
これまた器用に端にあるたこ焼きと真ん中にあるたこ焼きを返しを使いひょいと位置交換をしてしまう。
「お見事。これもシノギで?」
「いや、若い頃家で集まってようやってたなぁ」
「へぇ」
真島さんの従来の器用さを持ってしても、なんというか若い頃に何度かやったことある程度にしては、中々の腕前だ。ということは大阪のお友達でも居たのかな?大阪の人は家で良くやるので慣れていると聞く。
キッチンペーパーとアルミホイルで簡易作成したたこぼうずを使って球体に油を塗っていると、チャイム音が響いた。真島さんは立ち上がってインターフォンのモニターを覗き込むと、エントランスのオートロックを解除した。
「宅急便やな。そういや、頼んでたな」
「へぇ、意外。そういうの使うんだ」
「そうか?」
「煩わしくて嫌いそうじゃん、見て買いたい派だと思ったし。ネットでぽちぽちとか細かいの」
「まぁ基本的にはな。分かってるモン買うには便利やで」
まぁ、それはそう。でも確かに考えてみれば意外に流行りとか新しいモノに敏感で使いこなすところはある気がする。
あんなに達筆な人がネットショッピングもするって考えると面白い。
そのまま玄関へ行くのかと思っていたら先ほどまでの定位置に座ったので疑問の視線を向けると、目が合った。
「今絶妙なタイミングやから、受け取ってきてくれや」
「絶妙なタイミングってなに」
「旨いたこ焼き食いたいやろ?さっさと行ってこんかい」
部屋主が受け取りに行かない理不尽さを感じながら渋々立ち上がって部屋を出たタイミングでドア前のチャイムが鳴り、返事をした。
「はい」
「お届け物でーす、ここにサインお願いします」
ボールペンと手のひらサイズの切れ端を渡され、少しだけ戸惑う。
「サイン……」
ここは勿論真島さんの家なので、私の名前を書くのもおかしな話である。
意を決して求められたサイン欄に真島と記入した用紙を受け取ると、配達のお兄さんは何事もなかったかのように「ありがとうございました~」 と言ってさわやかに去っていった。私はその場に立ちつくしていた。
ずっと戻って来ない私を不審に思ったのか、真島さんが部屋から玄関へやってきた。
「なんや、宅配便装った輩に拉致られたかと思ったわ。どうした?」
「あー、……いやぁなんでも。ちょっとぼーっとしちゃって」
少し様子がおかしいと気付いて何かを察した真島さんはニマニマと笑みを浮かべ意地悪顔でのぞき込んでくるので顔を逸らした。
「なーんでそないに赤くなっとんやぁ」
分かってくるだろうにわざとらしく聞いてくる。
「知りません」
「新婚気分でも味わっとんたんか?そないに照れんでもそのうち当たり前になんで、奥さん」
本当に調子が良いことを言う。付き合ってもいないのに。
真島さんはヤクザ————即ち、極道というヤツらしい。暴力団。一般的にはいろいろとお断りされてしまう人たち。反社会的勢力。
出会った時から知っていたかと言うとそうではなく、仲良くなってから知ったことだったけれど特別に何か思うことは無かった。一般社会でも明らかになっていないだけで悪いことをしている人は数多存在するし、前提条件やルールが違えどどの世界も似たようなものだろうと。そもそも論、存在自体が非人道的といえばそうかも知れないが。
きっかけは、そう。
意外にも神室町以外の街での出会いだった。自分のシマではないからかいつもの奇抜な装いではなく至って普通……というには少し派手ではあるが普段よりは控えめの皮ジャケットにインナーもしっかりと着ていた。知人と会う約束だったが相手に急遽仕事の予定が入ってしまい手持ち無沙汰になった真島さんと遭遇したのだった。
女の扱いに手慣れている彼と、緩くも無いけど、硬すぎもしない貞操観念だった私。
勿論、誰でも良かった訳ではない。
ナンパに手慣れていた様子だったし、顔も良い。謎に眼帯だし危険な香りがしたけれどそれも一種のスパイスになったのかもしれない。
隻眼の、その一つの眼だけで全てを見透かされるような、深い色の瞳。
端的に言えば強く惹かれた、一目惚れというやつだったのだと思う。
惚れた者負けとはよく言ったもので、あれよあれよという間にそういう関係になった。
気を許されているのか、身体を重ねるだけでは無く、今日のように二人で文字通りただ一緒に過ごすだけの日もある。中々気を抜けない職種や職責であるから、私のように全く関係の無い人間との関わりが気楽で休息になるみたいな。
たぶん、きっとそんな感じなのだろう。
[chapter:2.かえりたくなるところ]
「どうしたんですか」
インターホンが鳴り、そこに映る姿を確認するとあまりにも衝撃的な出来事で思わず敬語になってしまった。
在宅でフリーランスなこともあり、大抵は家に居るという話はしていたけれど連絡無しでの訪問は初めてだった。
「都合、悪かったか」
「いや、そんなことは無いけど……」
なんだかちょっと、いつもと違う。
そんな真島さんを部屋の中に招き入れて、作業していたパソコンを脇に退かしてテーブルを空ける。その前にあるソファに座った真島さんはらしく無く申し訳なさそうな顔をしていた。
「すまんな」
真島さんの連絡は急だったりもするので、いつ連絡が来てもいいようになるべく空き時間には仕事を進めていた。今日もその流れである。
だから、私としては真島さんの為に空けている時間なので特に問題は無いのだけれど。
らしくない言葉を出した真島さんに返事の代わりに珈琲の入ったマグカップを目の前に置く。
「飯は?」
「んー……最後に食べたのいつだっけ?」
「知らんがな」
「とりあえず今日は食べてない気がする」
「なんやいつもそんな適当にしとるんか」
「だからいつも楽しみにしてるよ、真島さんとのご飯」
「それとこれとは別の話や。飯はちゃんと食っとき」
そう言いながらソファから立ち上がるとキッチンに向かい、冷蔵庫を物色し始めた。
「真島さんが作ってくれるの?」
「しゃあなしやのう」
「真島さんって料理できるの?」
「失礼なやっちゃな」
「ふふ、嘘。器用だから何でもできるでしょ。楽しみにしてる」
「何食いたいん?」
「んー、天ぷら」
「油モンかいな。飯食ってないんやから腹にエエもん食っとけ。うどんやうどん」
「真島さんがまともなこと言ってる〜」
そんなこんなでできあがったうどんは真島さんが作ったとは思えない優しい味がした。そう言ったらどつかれた。
「ていうか何か用事だったのでは?」
「用が無いと来たらあかんか」
なんだかこんなやりとりばかりだ。やっぱりおかしい。
今までは用が無いと会わないことは事実だからおかしいのは絶対に真島さんなのに。
二人で映画を観たりしてだらだらと過ごして一緒にベッドに入って就寝。言葉の通りで何も無い夜だった。
[chapter:3.大人の酒吟味会]
「んー、……」
「また苦手なんかいな。結局ほとんど飲んでへんやないかい」
「……日本酒は割といけたし」
「純米吟醸だけな。ウィスキー、芋も麦もダメやったろ」
「ワサビもカラシも大人になってから良さがわかって食べれるようになったし、今はまだ私には早かったんだよ」
「なんやそれ」
そう言いながらも真島さんは楽しそうに笑っている。
私が飲める酒を増やしたいと以前雑談程度に言っていたのを覚えていた真島さんから行こうやと唐突に誘われた。ちなみに私は言われるまで忘れていた。思いつきで言ったことを覚えていないのは割とあるあるだと思う。
「真島さんは何でもいけるんだね」
「勧められた酒、断りでもしたらシバかれるどこの話やないからな」
私がドロップアウトした、そこそこいいモノらしい芋焼酎が入ったロックグラスを傾けつつ呟いた。
「ふーん、そういうもんか」
「そういうもんや」
自分で聞いたんに空返事すんのやめや、と軽く小突かれ頭が揺れる。
「やーめーてぇ、揺れてきもちわるい……」
「はっ、弱すぎやろ」
結局いつもので落ち着いて、真島さんに残骸の後片付けを一通りさせた後、店を出たところの通りで視線を感じた。勿論それは私じゃなくて隣に立って腕を組んでくるこの男に向けられたもので、予想通り彼女はこちらに近付いてきた。
「あ~真島さん見っけ!次に会ったらお店来てくれるって約束してたよねぇー?ねぇ来て来て~」
「ヤクザとの適当な口約束なんか信じるモンやないで」
適当にあしらう真島さんの越しに、ちらちらとこちらを見定めるように向けられる視線に辟易する。
「あー……っと、込み入った話っぽいしここで解散でもいいよ」
「あ?なんでそうなんねん。今日はお前と約束しとったんや」
あーもう、空気を読んで欲しい。私はゴタゴタが面倒だからこの場を収めることを最優先としたいわけで、真島さんからするとそれが気に入らないということらしい。一瞬で機嫌が悪くなるのが分かった。
かと言ってここで露骨に相手が変わっただけじゃないですかなんて言ったら火に油を注ぐことになる。
「ほらでも、そっちの子とも約束をしてにはしてた訳でしょ? これもタイミングっていうか運だろうししょうがないって」
「ほおん、ほんならお前はジブン放って別の女ンとこ行けって言っとるワケやな?」
真島さんの隻眼が見定めるように鋭く向けられた。
「……まぁ、そういうことになるね」
「そんでええんやな?」
良くない。
決して良くはないけど、仕方ないことだと思っている。だって真島さんは私のものじゃない。
『いいよ』だなんて言葉にはとても出来なくて、首を縦に振るのがやっとのことだった。
「なら、ええわ」
私の肩に巻かれていたはずの真島さんの腕は煌びやかなドレスを纏った女の子の方へと離れていった。
「あーあ、寒いなぁ」
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SSS.𝑀𝑒𝑟𝑟𝑦 𝐶ℎ𝑟𝑖𝑠𝑡𝑚𝑎𝑠
《スーパーショートストーリー。タイトルまま》
「は〜、寒い……」
神室町の通りの煌びやかに光るイルミネーションを眺めながら首元のマフラーを直した。
この街もこの日はカップルで溢れかえっていて、独り身の私は少しだけ荒んだ気持ちになる。
「おねーさんクリスマスに1人なの〜?俺らと一緒に飲もうよ」
「…………」
「あれ〜?聞こえてなーい?おーい」
この街はこの日も変わらずこういう碌でも無い男がふらついてるらしい。やっぱり1人で歩くのは失敗だったなと脳内で反省会をしていたところ腕を掴まれた。
「かわいそうだと思って誘ってやってるのに調子乗ってんじゃねーよ!」
ほら、来いよ!どうせナンパ待ちだったんだろ?といわれも無いこと言葉をぶつけてられ立て続けに強く引っぱられ、自分の体重では踏ん張ることも出来ずによろけた。そろそろ明確に拒否の態度を見せないと、と口を開いた。
「ちょっ……」
「手ェ離せや」
低い声がこの騒ついている繁華街の中ではっきりと響いた。
声の主を見ただけで男たちは彼が何者なのかを理解したらしく、あれだけ纏わりついていた手を離して一目散に逃げていった。
「お前なんでよりにもよってこんな日に神室町うろついてんねん」
「…………それ、本当に分かってなくて聞いてます?」
真っ直ぐに彼——真島さんの隻眼をじっと見つめていると、先に外したのは彼の方だった。
真島さんとの関係には名前が無い。強いて言えば知り合い以上、友達未満と言ったところだろうか。
端的に言ってしまえば、私は彼が好きだ。けれど彼はそれに答える気は無いのだと思う。変に期待を持たせるようなことはしないし、…………いや、こうして助けている時点でそうとは言い切れないような気もする。
「なぁ」
「はい、なんでしょう」
「もういい加減やめや」
「言いましたよね、私諦めないって」
これまでも何度も何度も真島さんはこうして自分のことを諦めろと釘を刺してくるけれど、私はその度に突っぱねている。
「私思うんですけど、こうやって何度も助けてくれちゃったり構ったりする時点で諦めろなんて無理言ってると思いません?」
「……せやから神室町なんぞうろつくな言うとんねん」
真島さんが私を受け入れない理由なんて分かっている。どうせヤクザの自分はカタギの私と一緒になっても不幸にしか出来ないと思っているのだ。
実際にそうなのかもしれない。多分親や友達には言えないし、伝えたところで祝福されることだって無いだろう。
「嫌ですよ。私、真島さんのこと好きですから」
「………ええ加減にしろや」
多分、真島さんの気持ちも知った上でこのムーブをしている私を責めている。けれど、私だってこの想いは譲れないのだ。たとえ真島さんであっても。
私がふざけているわけでも揶揄っている訳でもないことは彼も十分に承知しているだろう。だから、何度でも伝える。
「私は多分真島さんが思っている以上に真島さんのことが好きで、あなた以外考えられないと思っています。それは他の何を置いても代えられないものだし、私の幸せは私が決める。…………私の、しあわせ……は、真島さんといっしょに、いることで、それ以外何もいらない……」
おかしいな。泣くつもりなんて無かったのに。だって泣いたら困るでしょう。
ほら、やっぱり。その顔を見たく無かったし、泣き落としみたいで嫌だったのに。
ふわりと、優しく抱きしめられた。
この人は力が強いはずなのに、本当にそうだったっけと思うほど弱々しく、そんなに優しくできるんだと驚くほどの力加減で彼の腕の中にいた。
「……ええんか」
「……、だからいいって言ってるじゃないですか、ずっと、最初からっ……!」
寧ろいつになったら分かってくれるのかなーって考えていたんだから。こっちは。
「巻き込むかもしれんし、色んなもの我慢させるやろうし、失うものも多い」
「……はは、……思ったより心配性なんですね。不安ならいっこいっこ確認しても良いよ」
「俺は一度掴んだら離さへんで」
「上等ですよ、受けて立ちます」
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たまには、独占欲も。
《そこそこ長く付き合っている二人。彼女が意外と嫉妬してるんだよ〜という話》
自分の側に居る時はいつも笑顔の彼女の機嫌が今日は何故かすこぶる悪い。
思い返せばこれまでそこそこに長い時間を共に過ごしてきたが不満を言われた記憶は一切無く、こんなことは初めてでどうしたもんかと考えあぐねていた。
女の機嫌を取ることなんて欲しがるハイブランド品を与えたり、店で金を落とせば取れるような簡単なものしか知らない。
こう考えてみると、随分と彼女に甘えていたことを思い知る。
原因は考えるまでもなく、思い当たることはただ一つだ。
シノギの関係でキャバクラに行く話をしてからだ。
しかし平時であれば彼女はこちらが心配になるくらいに清々しく送り出される。
こんなことは初めてである。何度も言いたくなるくらいには戸惑っているのかもしれない。全く苦痛ではなく、寧ろ楽しくもある。
ひとまず他に思い当たることも無い。自分で言うのも何だがこう見えて勘は良すぎる方で、対人の心の機敏にも敏感な方だと自負している。間違いなくこの件が原因だと断定して隣に座る彼女に話しかけることにした。
「なぁ」
「………………」
「怒っとるの見ることあらへんなぁって思っとったけど、案外悪くないもんやな」
耳元で妬いてるん?可愛ええなと意図的にトーンを落として囁いてやると真っ赤になる。それ以上のことなんて幾度もしている筈なのに分かりやすく反応を返してくるところも愛おしいと感じながら彼女の様子を観察し続けた。
「…………吾朗さんが浮気するとか疑わないし、他の女(ヒト)に靡くような男だとも思ってないですけど」
別に嫉妬しないわけじゃないんですからね。
あかん。可愛すぎる。
普段は淡々と仕事をこなして、甘い言葉を求めてくるような女じゃない。
どこか冷めたところがあると思っていた。
振り幅エグすぎやろ。
「どうすれば納まりがつきそうや?」
何かを思いついているらしい彼女に目線と共に話すように促す。
「……吾朗さんに迷惑かけちゃうから」
「誰かさんがいつもとまた違(ちご)て可愛ええから機嫌ええんや。今なら何だって聞けるで?」
「…………、付けたい」
「ん?」
言葉にするのが恥ずかしいのか、近距離に居ても聞き取れないほどの小さい声を拾おうと彼女の口元に寄せた。
ーーーー行く前に吾朗さんの気の済むまで思い切り抱いて欲しい。それで、キスマーク付けたい
思わず笑みが零れた。
「……珍しく大胆やないか、ええで。覚悟せえや?」
「今日の真島さんさぁー、珍しくジャケットの下に服着てたよね」
「そうそう、しかもタートルネック!絶対女だよね〜」
「真島さんにキスマ付けるってすごい独占欲」
「普段半裸だしねー。それを真島さんが許してるってのも意外」
「本命だったり?」
「えぇ〜、東城会の幹部ヤクザだよ?本命とかあり得る?」
「背中にも爪痕あったりして?」
「ありえる〜」
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SSS.実はアマアマなのは。
《付き合ってない真島さん大好きお相手ちゃんとそれに絆されている真島さんのお話》
「こんばんは!真島さん、相変わらずカッコいいですね!」
「ジブン今日も元気やなぁ」
呆れたように首を抑えながら軽く回しているその姿さえもかっこいい。なぜこの人はこんなにかっこいいのだろうか。
「ほんで?」
「ん?」
疑問符でこちらに答えを委ねるように目線を向けられるが、身に覚えがない。何か約束でもしていただろうか。
「どうせ飯まだやろ?希望あんなら聞いてやらんこともないで」
「え!?何でですか!?」
いきなりのご飯希望。いつもは真島さんのバッティングや喧嘩を一方的に見てはしゃいでいるのがデフォルトで、こうやってご飯希望の提案をされることはおろか、ご飯に連れて行ってもらったことない。それがなぜか出血特別大サービスとでも言うように真島さんとご飯に行ける。そして何故だか私の好きなものを聞いてもらえるらしい。
「いいからはよ言わんかい!せやないと決定権無くなるで〜?」
「え、嘘!やだやだ!うーんと、そうですね…やっぱり、韓来?」
「欲のない奴やのう」
そう言いながら足は韓来の方向に向かってくれている。
何だかよく分からないけど真島さんとご飯を一緒に食べることができるのは嬉しいな〜と機嫌良く鼻歌を歌っていると横を歩いていた真島さんから視線を感じた。
「なんですか?」
「今日誕生日なんやろ?」
「え、なんで知ってるの」
「なんでやろなぁ」
思わず足を止め本気で驚きながら真島さんをじっと見つめるけれども、彼はどこ吹く風でスタスタと歩き続けるので慌ててついて行く。
「お前何で言わんのや」
普段狂気的にテンションを高くして喧嘩などをしている人のはずなのに、拗ねたように言う姿は珍しく感情を見せていて。
「いや、恥ずかしいのもあるし。素直に『祝って〜』って言うのも、ね」
「普段俺にあんだけ『かっこいいー!』だの『好き!』だの言うてるやつが何言うとんねん」
「はは、確かにそうかも」
「言うてくれるの待ってたんやで?」
「へ」
私は真島さんへの好意を包み隠すことなく余すことなく伝えてきてはいたけれど、真島さんはそれをのらりくりと躱していたのに、突然のこの甘さ。誕生日ボーナスか。
「それって祝ってくれるつもりだったってことですか!」
「あー、うっさいうっさい」
「それって真島さん私のこと好」
「ホンマに風情無い女やのぅ」
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一方通行だった想いの行方
《両片想い的な2人、ほぼお相手ちゃんの独白》
恋愛なんて両方が同じだけの気持ちなんてことはなくて、大抵はどっちかからの好きで始まってそれに応じるか応じないかの話。
そういう話で言うと、私は真島さんが好きで彼はそうじゃない、そして真島さんにはそれに応じる気がないというだけなのだ。ほんとうに。ただそれだけ。
人って我儘だと思う。他から向けられる好意があっても欲しいのは自分の意中の相手からの気持ちだけで、それを得られないことに苦しいと思っている。身勝手。自分勝手。
上手くいかないことなんて当たり前で。両想いなんて奇跡でしかなくて。
それでも振り向いて見せるって殊勝に振舞っていたけど、もう限界だった。
特に何かあったわけじゃなかった。例えるならコップいっぱいに入っていた”何か”が少しずつ、いや、もしかしたら少しじゃなくってその都度結構な量を減らしていっていたのかもしれない。鈍感なフリ、気づかないフリを続けていたらある日それが底を尽きた。からっからに。
あーあ、もうやんなっちゃった、ってなってしまっただけ。
そうなると積み上げていったものたちなんてどうでも良くなって、何もかも投げ出したくなった。
真島さんはいつでも真摯だった。変に期待させることはしなかったし、いつでもきっぱりと「遊びやったら幾らでも付き合うたるけど、本気なら相手できん」って私の気持ちを見抜いたうえで遊んでもくれなった。遊んでる女はたくさんいるくせに。決してその一人にはしてくれなかった。
適当に見えて全てを見透かして、躱す。それがいいことなのか、分からないけれど。悪い男ではないことは確かで、それがまた更に好きにさせた。
そうやって想いはどんどん膨らんでいくのに、関係はいつまでも変わらないままで。
真島さんが私に興味ないのは当たり前。だって好きなのは私だけだから。でもいいのと、それでもずっと思い続けてそれを伝えていればいつか、もしかしたら。きっと。
自分を騙し続けて、もう限界だった。
***
神室町に顔を出さなくなってもうひと月が経とうとしていた。未だに彼のことは忘れられないし、胸も未だ痛むけど、それでも日常は廻っていく。恋愛なんてはしかみたいなものらしいので、会わなければ、考えなければきっといつかは忘れて過ごすことができると信じて、今は静かにじっと我慢して耐え忍ぶ時だと言い聞かせ過ごしている。
普通に生活をしていればかかわることがなかった人、街だったことを思い知らされる。
楽しかった時期もあったけど、やっぱり顛末が報われないと分かっていることを自覚したときの喪失感や虚無感は無視できなかった。
自宅の最寄り駅に着き、岐路につきながら今日の夕飯について考える。明日は休みだし近くにできて気になっていた地中海料理のお店に行くのも良いかもしれない。
「なぁ」
現実的な思考回路から一気に飛ばされるように、沸騰した気持ちになる。
たぶん今後一生、会うことがないとしても忘れることのない大好きな声。
「急に姿見せんくなったと思ったらトンズラかいな」
責めるような言葉に呆れを乗せた声色。いつもの派手なジャケットじゃない、同じ蛇皮だけど色味は暗めで落ち着いていて、いつもは半裸なのにインナーも着ている。初めて見る姿だ。
「何の用ですか」
「随分ちゃうんか?ヤクザにあんだけ構っといていきなりなしのつぶてやもんなぁ。ひどいもんやで、なぁ?」
理不尽極まりないと思う。真島さんは私の気持ちを知っていて応えなかった。私がその状態に音を上げてしまった、ただそれだけ。
「迎えに来た。行くか、行かへんのかどっちや」
「……もっと、他にないの」
”好きだ”とか、”愛してる”とか。そういう甘い言葉は。
「ここに来ただけで十分、やろ?」
そう。だって彼は一切私の気持ちを受け取ることは無かった。その意味が分からないほど馬鹿じゃなかった。
「なんでそんな自信満々なの、むかつく」
「そりゃな、お前俺にベタ惚れやないか」
悔しいけど、その通りだ。
やっぱりどれだけ強がりを言っても、欲しかった。彼からの愛が。
本当に報われなくても良いって思っているのなら、伝えていないし行動なんてしてない。
拾い上げてくれた、掬い上げてくれた。何よりも大好きな、真島さんが。
それだけで充分だった。
言い訳。
真島さんはお相手ちゃんが好き好き言い寄ってきてた時からどうしようかと考えていたと思います。中々腹が決まらなかった中でゆめちゃんが居なくなったことがきっかけで腹を決めたということにしておきましょう。
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SSS.憂鬱な日はあなたがいれば吹き飛ぶ
《スーパーショートストーリー。タイトルまま》
今日は散々な日だった。あまり深く思い出したく無いので端的に言うと『女だから』という男尊女卑的な考えで振り回された。
疲弊もするし、言葉を選ばずに言うのであればめちゃくちゃ腹が立った。
この憤りをどうしたらいいかが分からないまま時間が過ぎていって、いつもより仕事に集中出来ていないまま就業時間を終えた自分にも少し自己嫌悪しながら自宅マンションに着くと部屋の灯りが灯っているのに気付き、気持ちが高揚した。
部屋の鍵を持っているのは私の他に、ただ一人。彼がいると思ったらはやる気持ちを抑えられず、足早に部屋に向かった。
「おう、おかえり」
玄関のドアを開けると冷蔵庫から麦茶を取り出している真島さんの顔を見て落ち込んでいた気分がどこかへ吹っ飛んでいった。会えたことも嬉しいし、私が沸かしていたそれをコップに注ぎながら「飲むか?」と聞いてくるのにも私の生活が真島さんと繋がったてそこに遠慮がないこともそれを増幅させていく。首を縦に振るともう一つおなじコップを取り出し器用に片手で透明を茶色に染めていく。
2人並んでソファに腰掛けると、よく冷えた麦茶を口にした真島さんが思い出したように口を開く。
「ほんで食いたいもんあるか?」
「え?せっかく来てくれてるし、なにか作ろうかなぁと思ってたんですけど」
「それも嬉しいけどなぁ」
唐突でそこで言葉を切って私をじっと見つめて笑い、頭をぽんぽんと撫でる。
それだけで励ましてくれていると伝わって好きが積もっていく。
「ねぇ、吾朗さん」
「だいすきです!」
「えっ、吾朗さんが作ってくれるんですか?食べに行くんじゃ無くて?」
「その方がええならそんでもええけど、今から行くのもかったるいやろ。座って待っとき」
「…〜っ! すき」
「分かったから風呂入ってあったまって来いや」
言い訳。
書けたかどうかイマイチなので言い訳的に書いておくと
合鍵を持っていて且つ連絡無しでも互いの家を行き来している関係値
顔を見ていつもと違うということが分かっちゃう真島さん大好きという話でした。
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ドライカレーと牛すね肉のシチュー
《付き合ってる2人で真島さんがお相手ちゃんのことよく分かってるなーって話》
真島さんとそれらしい関係になって一年になる。意外と(なんて言ってしまうと多大に失礼ではあるのだけれども)色々と考える質(タチ)であった彼と紆余曲折を経てやっとお付き合いという形をとることになり、ここまでを迎えている。
とは言ってもお互いにそこそこ人生経験も恋愛の酸いも甘いも経験してきているので、今更異性に幻想を抱くことも無かった。
具体的に言うのであれば、真島さんはキャバクラの女の子と会ったり店に行くことは仕事の延長。付き合いというものがあるし、私も恋に恋するような恋愛したての若い女でも無い。キャピキャピキャッキャする年頃でもないし、男の趣味に合わせて服装やメイクを変えたり合わせたりするなんてことは今更しない。
元の性格がドライなこともあるけれど、真島さんのそういうことに特に嫉妬するとかモヤモヤするということも無く。
私は今の距離感をすごく心地いいと思っている。前になんとなくそういう話になった時に真島さんもそうだと言っていた。
かと言って冷え切った関係ということでもないので、互いの部屋を行き来しているし、今日は真島さんの部屋のベッドで共に朝を迎え、寝起きが悪い彼を割と強めに叩き起こした。低血圧であるが為に酷く眉間に皺を寄せながら嫌々という感じで起床した彼は早々にベッドサイドにある煙草を手に取って火を灯す。
半裸姿は彼の通常運転だ。一度見せびらかす為に脱いでるの?と聞いたらどつかれた。鍛えているし、あながち間違いじゃない気がするんだけど。
そこそこ伸びてきた髪を両手を使ってまとめる。邪魔になってきたしそろそろ切りたいなぁと考えながらベッドから出た。
「今日はどんな予定で?」
「予定聞いてくるなんて珍しいやん」
「時間が合えば夕食一緒にどうかなーって」
昨日なんの気なしに見ていたテレビでキーマカレーの作り方を放送していた。夏バテ気味であまり食欲がなくなっていた中でそそられて作ってみようと思ったけれど、せっかく作るのに一人で食べるのも味気ないので真島さんを誘った、というワケである。
「あー、今日は先約があんねん」
「そうですか、残念です」
クローゼットに仕舞われた下着を取り出して抱え、空いたもう片方の手で双方が脱ぎ散らかした昨日の残骸たちを拾い、浴室へ向かった。
*
特に何事も無く定時を迎え、最寄りスーパーに指定のスパイスが売っていなかったので輸入品店へ寄り全ての買い物を終え、数日振りに自宅へ帰宅した。
さて、ひとまず具材を切るかと思ったところで着信音が部屋に響く。ディスプレイを確認して珍しいなと思いながら通話ボタンを押した。
「はい」
『もしもし〜?今さ、友達と飲みにきてたんだけどさ店がどこも空いてなくてさ。丁度姉ちゃん家近かったなと思って。今家?」
そう言われて今日の日付を思い出してみたら、最寄り駅とまでは行かないがその近隣で花火大会があることを思い出した。某川で行われるものと比べたら規模は小さいが毎年、この時期は観光客や地元民でそこそこ賑わい、飲食店は混んでいるし、他に出ようにも電車も激混み。そのことを話すとやはり知らなかった様子だった。
「今からご飯作ろうと思ってたところだけど、食べに来る?」
「マジ?助かるわぁ。酒とつまみは適当に買ってくからさ」
「あんまり大人数だと困るけど」
「あ、それは大丈夫。俺の他に一人だから」
「そう。なら良かった」
二度目のお礼と感謝の言葉を聞いて通話を終了した。近くにいるならそこそこ早くやってくるだろうと早々に準備に取り掛かった。
*
予想通り1時間もしないうちにやってきた弟とその友達との挨拶をそこそこに室内へ招き、後少しで出来るからと遠慮なく適当に始めていいと声を掛け、キッチンに戻る。
黙々と残りの工程をこなし後は煮込むだけの状態。冷蔵庫から缶ビールを取り出して二人の会話に入り、弟の近況や私の職種と近かった友人の話を興味深く聞きつつキッチンを行ったり来たりして煮込み具合を見る。
完成したキーマカレーは大好評に終わり大袈裟なほどに褒められ、持ち帰りを希望されたので残りを取り分けてそれぞれに渡し、律儀にお礼を伝えてくる二人を玄関口で見送った。
「あ」
図ったように弟たちと入れ替わりにやってきたのは、あまりにも差がひどくある男。至って普通な二人を見た後だととても非日常を感じる相変わらずの出立である真島さんがそこにはいた。
「自分の男の連絡無視して他の男連れ込んどるなんてええ度胸やないか」
玄関口でヤクザに因縁をつけられるのはなんだかドラマの中で取り立てされることを彷彿とさせるなぁと思いつつ、そう言えば弟と通話した後に充電するのをすっかり忘れていた。着信音が鳴っていないということはちょうど電源が切れてしまっていたのだろう。手早くキーマカレー作りに取り掛かろうと思い、すっかり忘れていた。
「あー、電話してくれてたんですね。すみませんすっかり充電忘れてて」
「男のことは無視かいな」
「結構似てるって言われるんですけど、どうですか?」
「そやな。賢そうなとこ、そっくりや」
「え、嬉しい」
トーンから全てを理解した上での言葉だと思っていたがやはりそうだったようで。すれ違ったのは一瞬だっただろうに、流石の真島さんの観察眼に驚くのと分かりやすく誉めることをしない彼からの言葉が意外だったのと嬉しかった。
ちょっとした茶番の会話を終えて、部屋の中に招くと、真島さんが驚いたようにしているのでどうしたんですかと、問いかけた。
「飯作るんなら言っとけや」
「あれ、言ってなかったですか?」
「聞いてないな」
彼は先ほどの軽いものとは違って少し声のトーンを落としている。
「いやぁ。言ったとしても先約を優先すべきですし、そこで私が優先されるのも違うじゃないですか」
珍しい。彼もこの辺りドライというか同じ温度感だったのに、今日はやけに突っかかってくるというか。
不服そうな私の様子に呆れたように深くため息をついて私を見やる。
なんだなんだ。なんなんだ。
「お前が作り慣れてへん妙に凝った料理作るっちゅー時は大抵体調悪い時なん、自覚しとるか?」
そう言われて時が止まる。寝耳に水というか、今まで全く考えたことが無く思ったこともないことであまりにも驚いた。
そう言われ今回も夏バテ気味だったし、思い返せば確かに同じようなことが冬頃にもあった。あれは確か牛すね肉のビーフシチューだったか。
「いや、全然気付いてなかった。真島さんすごいですね……」
「当たり前や。俺を誰だと思ってんねん」
……というか、私自身気付かないことを気付くって勿論真島さんの観察眼の凄さもあるけど。
————あれ、真島さんって私が思ってるよりも私のこと好きなのでは?————
そのことに気付いた瞬間、顔が熱くなってきた。
「兄ちゃんなぁ、お前のこと気に入っとった様子やったで」
「まぁ、職種が近かったので意気投合というか、親近感が湧いたんでしょうね。あとは年上がよく見える年頃というか、そんな感じでしょ」
「そら今更年端も行かんガキにお前を取られるなんて事は思わへんけどな」
気にしてへん、ちゅー訳やないからな?
真島さんはさらに私の身体の熱を上げさせた。
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お前の希望、叶ったで
《ちょっとアホめな子犬系お相手ちゃんと塩対応の真島さんがなんやかんやでやられる話》
「お兄さんかっこいいですね!連絡先教えてくださいよ!」
「あ?俺に言うとんのか?」
真島さんとの出会いは東京は神室町。東京で一番治安が悪い街とされる場所。
例に漏れず、今日もこの街ではあちこちで泥酔したホス狂いやカツアゲひったくりに質の悪いナンパetcetc……
そんな街の中で私が何をしているかというと、マーケティング調査だ。私が勤めている会社で扱う新商品のターゲット層が夜の街で働く人たちなので、街の中で人々を観察しながら具体的な数値には表れない些細な情報であったりを収集することが主な目的である。
さて、次に仕事の一環として来たのに何故冒頭のようなやり取りになったのかということだけれども、これは真島さんが悪いと思う。
天下一通りで「お前ら邪魔やねん!」と叫びながらドミノ倒しよろしくチンピラたちを短刀でなぎ倒していった。それはもうものの見事に。
普通だったらその人間離れした所業に恐れおののいたりするのだろうけれど、私はその華麗な動きに魅入っていた。
しかもそれだけではない。そこで私の口から漏れたのは。
「かっこいい……」
「あぁ?」
そして冒頭のやり取りに繋がる。
「お兄さんかっこいいですね!連絡先教えてくださいよ!」
「あ?俺に言うとんのか?」
「そうですよ!」
「お兄さんってなぁ……ネェちゃんいくつやねん」
レディに年齢を聞くだなんて、と茶化しながら答えると俺と二回り近く違うやんけ!とかなり驚かれた。こっちもびっくりだ。
「え、めっちゃ若っ…!ますます興味出ちゃいました」
「こっちは興味ないわ。女が一人でふらつく街やないんやからはよ帰り」
「あまりにも私の好みのど真ん中ドストライクだったもので……帰れません!」
「んなモン知るかいな。ワシのせいにすな」
「あ、そもそも私仕事しに来てたんでした。どちらにせよまだ帰れません」
「仕事そっちのけやないかい」
「へへ、お兄さんが魅力的だったので」
「それむず痒くてしゃあないからやめ」
「え、じゃあどのようにお呼びしたら」
ひとつ大きなため息を吐きこちらを見た彼の瞳は射抜かれそうなほど鋭く、今までの雰囲気と一気に変えて冷たいものになっていた。
「……なぁネエちゃん、俺ぁこう見えて今ドチャクソにキレとんねん。
ええ加減にせんと、遊びじゃ済まへんで?」
冷えた声色が響いた瞬間、私は動くことが出来なかった。
「親父、ここでしたか! 車回してきました」
「ほな行くで」
彼が早々に去っていたそこで私は立ち尽くしたままだった。
***
「こんばんは!」
またある日の神室町、天下一通り。元気ににこやかに挨拶する私の目の前にはこの間の彼のげんなりした顔。
「何でまたおんねん」
「そりゃあ、また真島さんに会いに?」
「……調べたんか」
街中で情報ツウなママがいるということを耳に挟み、チャンピオン街の亜天使というスナックを訪れ尋ねた。眼帯で~と話した時点で『真島サンね』と教えてくれた。東城会というヤクザの幹部で、ケンカがめちゃくちゃ強い人らしい。
「ええ、ばっちり!ちょっと調べただけで分かりました。有名人なんですねぇ」
大きなため息を吐かれる。なんだ、失礼な。
「自分ついこないだ怖くて動かれへんようになっとったくせによう言うわ。ホンマは怖いくせに強がりおって」
「違います。私に引かせるために態と怖いところ見せたんじゃないですか? そういうところホントは優しいんだなーって思っちゃって余計に惹かれちゃいました!」
「そんなん勝手にお前が思ってるだけやし、そもそもまだ会うたの2回やろ」
「ふふ、思うだけなら勝手ですよね〜」
「はぁー……。脳内お花畑な能天気なやっちゃ」
***
そんなこんなで私は神室町に真島さん探索のために入り浸るようになり、彼も彼でそれなりに絆されていってくれたと思う。こうしてバーで会っても(会うというより強制エンカウント待ちとも言える)一緒にお話ししてくれる程度には。
「そもそもガキすぎるやろ」
「ガキって……世間的には結構良い年ですよ?」
「オトナのオンナには程遠いのぉ。色気身につけて来んかい色気を」
「私だって色気くらい————」
視線を向けると肩肘をテーブルについて掌に顔を乗せ、じっ、と流し目でこちらを真っ直ぐ見つめる真島さん。
「ずるいですよぉ〜目力ありすぎですもん」
耐えられなくなって先に目を逸らして降参とばかりにテーブルに突っ伏した。
「私に色気が身に付いたら観念して真島さんの女にしてください……」
うつ伏せのままくぐもった声で力なく言うと真島さんはヒヒ、と愉快そうに笑って去っていった。
***
「あ、見つかっちゃいましたか」
ミレニアムタワーの屋上で鉢合わせた彼女は悪戯が見つかった子供よろしく苦笑いを浮かべていたそれに、真島は平時と異なる感触を抱いた。
いつもなら煩わしいと感じるのに、纏う雰囲気は今日は違って見えた。
動揺したことを悟られないようにするのは極道の十八番かもしれない。彼女はそのことに気付く素振りもなく真島に声をかけた。
「なぜここに」
「事務所ここに入っとるんや。そっちは?」
「同じようなもんですね。支店がここに入ってて、所属してる訳じゃないですけど、一応自由に使っていいらしいので」
「ほおん」
まだ長く残っているシガレットの火を携帯灰皿を取り出して消そうとするところを真島の黒い手袋が制した。
「付き合えや」
彼女は少しバツの悪さのようなものを感じながら再度フィルターを口にし、吸い込んだ。
真島も同じように煙を吐き出しながら神室町のネオンの光を見つめていた。
「……女が煙草吸ってるのってイメージ悪いじゃ無いですか」
「そうかぁ?」
「ふ、……そういうところがいいんだよなぁ真島さんは」
「周りは大抵吸ってるからのぉ」
一般的な社会では男尊女卑とまでは行かなくとも、女なのに、女の癖にという変なカテゴライズのようなものがあるのかもしれない。現に真島の知る夜の世界の女も接客中に堂々と吸う女は少ない。しかしそういう世界の裏側を多く知っている彼は愛煙家が圧倒的に多いことも知っているし、真島自身大して拘りは特に無かった。
「なぁ」
「はい?」
「お前の希望、叶ったで」
「え、…………、それって……つまり私に色気感じてくれたってことですよね!? どこ!? どこ!? 教えてくださいよー!」
「やっぱ撤回や」
「そんな殺生なぁ〜」
分かった分かったと投げやりに言ってやるとやった〜やった〜と両手をあげて喜ぶ女を可愛いらしいと思うくらいになっていた自分に気付いた真島は、悪くないと笑った。
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そのつもりで選べや【3】
《建設会社コンサル的なお相手ちゃんと真島さんとの出会いからくっつくまで3》
5.その時は突然に
「さあて、いっちょやるかのぅ」
安全は確認できたし暴れたるか!と私を見やり、いつもの派手なジャケットを脱ぎこちらへ放り投げてきたので困惑しながらキャッチしたその時には、短刀を器用に幾度となく持ち替えながら角度も様々に巧みに操って何人もの敵を斬りつけていっていた。勿論真島社長に向かっていく敵も複数いるけれど、彼のスピードは段違いで難なく横に避けている。器用な動きに圧倒されていたのに、さらに今度は背を向けたそこに現れた、額彫りに大きな般若と散らされた椿は物凄い威圧感。圧倒されつつも————綺麗だと思ってしまった。
「なんちゅう顔してんのや」
「え……?」
いつの間にか彼のひと暴れのターンは終了していたようで、呆けていた私の目の前の真島社長は傷ひとつ無くそこに居てしゃがんでこちらを覗き込んでいた。胸にも入っていることは見えてはいたけど、こちらは蛇。異質なものであることは間違い無いのに嫌な感じがしない。寧ろ魅力的に感じてしまっている。
「いつもの鉄仮面忘れとるで。そない食べられてもいいっちゅー顔してたら悪い男に全部いかれてまうでぇ?」
冗談混じりの口調で言ったつもりであろう筈の言葉にそうなってしまっても良いと思ってしまったのだから手に負えない。
目を逸らさずじっと彼を見つめたままの私を見て、少しだけ彼の表情が変わった。
「アホな女や」
* * * * * *
「あー、なんや、惚れてしもうたか」
「そうかもしれません。困ったことに」
ラブホテルの一室、ベッドの上でうつ伏せのままの私は上体を起こしている男は紫煙を燻らせている様をぼうっと見ていた。
極道の男だから好き勝手に抱かれると思っていたけれど、予想に激しく反して酷く優しく丁寧だったことを思い返せば、目の前のこの男も満更では無くてお互い様ではないかと感じたのでそれを露骨に顔に出してやると、素知らぬ顔をされた。憎たらしい。
「俺、カッコええもんなぁ」
「ですね」
じゃあこちらは徹底的に素直にいってやるという姿勢で間髪入れずに肯定を返せば、否定せえやと笑い煙草を咥えたまま視線をこちらに向けた。
「せやけどな、下手なこたぁ言わん。やめときや」
「真島さんって自分勝手ですよね」
あんなに蕩かせるように抱いておいてその後でそれだなんてつれないどころの話ではない。
「ヤクザの、それも組長なんてそんなもんや。ええか。極道モンっちゅうんは、思てるよりもなーん十倍も何百倍も惨い世界やし世間様に顔向けできるようなモンでもない」
頭のええお前なら分かるやろ。
そう付け加えられた言葉を聞きながらそれはそうだろうと思う。ひとまず両親には勘当され兄弟親戚もろとも全ての縁は切れるだろうし、先のことを考えれば今の会社にだっていられなくなるし、気心の知れた友人にも軽蔑され会うこともできなくなるかもしれない。
冷静に将来を考えれば明るくない未来が待っていることは想像に容易い。
でも。それでも。
「真島さんが私の目の前から消えるということが私の幸せだっていうなら、間違ってる」
小さなことを挙げれば狂ったように振る舞いに反して頭の良いところだったり、それを見せたがらないところだったり意外と可愛らしいとこだったりするけれど、それ以上に本能で彼を求めてしまっていて、だからこそ身体を繋げたのだと思う。理屈じゃ無いのだ。
誰に後ろ指を刺されても周りに反対されても、それでも真島さんと一緒にいたい。そう思ってしまった。
「んで、どうなんや。はっきり、選べや」
「…………攫ってはくれないの」
私が選ばないとして、それでいいの?手放せるの?
私はもう真島さんが嫌だって言っても真島さん無しじゃいられないって思ってるのに。
そんな思いがこもって責めるような言い方になった私に真島さんはいつになく真剣な眼差しを向けたままだ。
「勘違いすなや。これがお前に選ばせる最後や
…………安心せぇ。一度こっちを選んだら二度と離さん」
せやから手前のケジメは手前でつけぇ。
そのつもりで選べや。
極道だっていうことは一つの要素でしかなくて、世の中にはホスト・詐欺師・DV野郎、それはもちろん聖人君主みたいな人に出会えれば世間的にはいいのかもしれない。でも私はそんなものより自分が愛した人と一緒に居たい。それが世間知らずとか不幸せとか茨の道とか誰に何を言われようとも、私は自分で選んだ人と、真島吾朗と、一緒にいたい。
そう答えたら。
「ええ覚悟や」
そう不敵に笑って強く抱き締められた。
痛いくらいのそれが嬉しくて、幸せで。涙が出た。
「流石に目の届く範囲に居てもらわな、いざっちゅー時に守れん可能性のが高ぅなるからミレニアムタワー内か真島建設に居て欲しいねん」
「ミレニアムタワーに入ってる会社も良いですけど、もう真島建設の雑務兼経理とかでいいですかね」
真島さんは譲歩してミレニアムタワーにある会社の選択肢を出してくれただろうけれど、多分その方が色々と都合が良いだろう。
「なんやお前、経理も行けんのか」
「まぁ、資格は一通り」
「……ほんま、アホな選択しおって」
「はーい、おセンチ禁止ですよー」
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